小谷の自然 〜想いつくままに
永 井 信 三
ルート バスで信州に向かう時、途中で渋滞に引っかからなければ、駒ヶ岳SAで昼食を採る事になります。ここで初めて信州の自然に直に触れることが出来ます。バスから出ると、まず山鳴きのウグイスの声が耳に飛び込んできます。そしてどこかで鳴くカッコウの声も(ウグイスは春先人里で鳴き出します=里鳴き、夏が近づいて来ると涼しい山に移ってゆきます=これが山鳴き。カッコウは夏鳥で、初夏に日本に渡って来ます)。もちろん、池原でもウグイスやカッコウの声を聞くことが出来ます。そしてお昼を食べている雑木林の中では、ギギギギギギとエゾゼミの声が降って来ます。(木の梢で鳴いているので、姿を見つけるのは難しい)信州の自然体感の序曲です。
バスはそこを出ると、南から北へ長野県を縦断して進みます。豊科で高速を降り、安曇平を走り信濃大町から仁科三湖へ。そして白馬連峰の残雪〜「今年はどんな雪型が見られるだろう?」とワクワクするポイントです。〜を仰ぎ見ながら白馬村を抜け小谷村へ。姫川の流れを眼下に見ながら中土駅へ向かいます。楽劇《信州・池原ネイチャー》の幕開きです。

白馬連山
白馬連山
中土 リュックを肩に、レックに向けて出発します。河岸段丘を一気に登ります。途中から下を見ると先ほど居た中土駅の向こうに広々と姫川河原が見渡せます。うまく行くと、トンネルを出てゴトゴト鉄橋を渡ってくるディーゼルカーが見られるかもしれません。
その姫川河原に、僕の好きな野草の一つ、カワラハハコ草が在ります。漢字で書くと「河原母子草」。白い産毛で銀緑色に見える葉を着け、白い小さな萼(ガク)の中に黄色い小さな花をつけます。これによく似た花を知りませんか?そうです。河原母子草はあのエーデルワイスの遠い親戚なのです。この草は姫川河原だけでなく、砂地の河原にはよく生えていますから、気をつけていると見つける事が出来るでしょう。(ちゃんと父子草というのも有りますので、お父さん安心してください) カワラハハコ
カワラハハコ
雨飾山方面
遠くに雨飾山を見る
道は池原下の河岸段丘一段目の上に出ます。塩の道古道を横切る辺りから、もう一段上の段丘上に杉と欅(ケヤキ)の木立に囲まれたレックが見え始めます。振り返ると深田久弥(ふかだきゅうや)氏の「日本百名山」にもあげられている雨飾山(あまかざりやま)方面の視界が徐々に開けて来ます。 地図

LEC

オニグルミ(雄花)
オニグルミ(雄花)
オニグルミ(実)
オニグルミ(実)
道が蛇行する辺りから、所々に大きな葉っぱの木が目に付くようになります。ピンポン球大の緑色の実が房状に生っているのが見られるでしょう。鬼胡桃(オニグルミ)の木です。風の吹いた後などには道に落ちています。この時季残念ながら熟すには少し早すぎますが、緑色の果肉を取り除くと見慣れた胡桃が出てきます。(アクが強いので、気をつけないと手が染まってしまいます。服にでもついたら大変です。洗濯しても落ちません。それにかぶれる事もあります)
山椒魚
山椒魚つかまえたよ
そうこうしている内にレックに着きます。一休みしている間にレックの下のお宅の道をはさんで在る草原の小さな流れを覗いて見ましょう。うまく行くと山椒魚の幼生を見ることが出来るかもしれません。山椒魚の種類は違いますが、西宮の甲山周辺では6月に幼生が見られます。そう云えば、レック周辺では8月にまだ蛍が見られます。レック近くではハグレ蛍的な感じで飛んでいますが、水田の在る所に行けば、ある程度の数を見ることが出来ます。その蛍。初夏の風物詩の蛍が、秋の七草「尾花」=穂の出たススキや、花の着いた「萩」にとまっている。そう云う不思議な光景が見られることが有ります。池原は初夏と秋が混在するワンダーランドなのです。
林道
林道を上がる
レックからBSのキャンプサイトへ林道を通って上がってみましょう。しばらく登ると、姫川の谷を隔てて東山(小谷山地)方面が見晴らせます。以前その辺りは鬱蒼とした森林でしたが、ある時期切り払われてしまいました。紙の原料になったと言う事です。森林の中を歩く趣は失われてしまいましたが、遠くを見渡すことが出来るという違う形の楽しみを生み出しました。それに森林の中を歩く楽しみが味わえる場所は、まだまだいっぱい在ります。実が栃餅の原料となる「栃の木」や朴葉味噌の「朴の木」などの大木がここを狭しと枝を延ばしています。足元には、時期は外れていますし、採ったら怒られますが「こごみ」「大葉擬宝珠(おおばぎぼうし)」などの山菜が見られます。そして山葡萄が木に蔓を伸ばしている所も。見て歩くだけでもお腹が一杯になりそうです。そしてそこは上手くしたもので、胃薬の原料になる「黄ハダ」の木まで有ります。そんな森林の中の小径がまだまだ在ります。
そして森林が切り払われた所も二次林が形成されつつあります。後何十年か経てばその場所も森林と化しているかもしれません。ワイドビューが楽しめるのは今だけです。そのチャンスを楽しみましょう。晴れていれば、青い空にポッカリと白い雲、その雲の陰が、緑の山々を渡って行きます。天気が悪ければ、山にまとわり着くように流れる幻想的な霧の姿が目を楽しませてくれるでしょう。そして気象条件が合えば素晴らしい虹の掛け橋を見ることが出来ます。午後に驟雨でも有れば、すべての条件はピッタシです。

風景を楽しんだら、そろそろ先へ進みましょう。少しで、「水楢(ミズナラ)」「落葉松(カラマツ)」の林の中のキャンプサイトに到着します。「白樺」「岳樺」の木も何本か在ったのですがだんだんと枯れたりして、今も残っていたか定かではありません。林道はその中央を貫いて続いています。ここでも、林道が通ったことで楽しみが一つ増えました。それは「栗鼠(リス)」の姿を見つけ易くなったと言う事です。栗鼠は警戒心が強くスバシコイ動物ですから、人間が見つける前に木の裏側に隠れてしまったりして普通では見つけるのは難しいのですが、林道が通ったことで、木の梢を渡ってゆく事が出来なくなりました。飛び降りるタイミングを計っている時、そちらに意識を集中させているためか、人に見られているのに気付かない事が有ります。見ているとしばらく躊躇した後、木を駆け下り、道をピョンピョンと駆けて行き道の反対側の木に駆け上ります。その姿はなんとも可愛いものです。栗鼠にとっては迷惑な話では有りますが。

野営地の森1

野営地の森2

野営地の森3
野営地の森

ワサビ
ワサビ
このように、池原は関西では体感できない素晴らしいものをいっぱい味わせてくれます。何の気なしに分け入った林の中に「水芭蕉」の群落を見つけたり。そうそう「山葵(ワサビ)」を見つける事が有るかも知れませんが、それは栽培されて居る物です。手を伸ばさないようにしましょう。

白鳥座・琴座 林道の効用がもう一つあります。歩きやすくなったと言うことです。大営火の後など、「白鳥座」「天の川」など満天の星を見上げながらレックへ。足元に気を向けなくてもそう危ないことは無い。星空のロマンを楽しみながら、大営火の余韻に浸りつつレックへ。

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奴奈川姫
奴奈川姫像
次に姫川の「翡翠(ヒスイ)」について。昔、「姫川」は「奴奈川(ぬながわ)」と呼ばれていたそうです。奴奈とは「玉(ぎょく)」の事で、古事記や出雲風土記に、大国主の命と「越の国」の奴奈川姫との婚姻の記述があるそうで、これは、往時の勢力を誇る民族と宝玉を産する地の民族の結びつきを物語っているのでしょう。ちなみに大国主と奴奈川姫の間に生まれた子が、諏訪大社の御神体「諏訪大明神」になったと言う事で、池原下に諏訪神社があることもうなずけます。 地勢
池原周辺の地勢
話を元に戻して、残念ながら池原の近くではヒスイは採れません。ヒスイは、蛇紋岩(暗緑色の細かい結晶の美しい石)にマグマが貫入し、そこに曹長石が出来ると蛇紋岩の緑色の成分が白い曹長石に移入して出来上がります。ですから条件的にはかなり限られる事になります。
小倉さんの小母ちゃんのお話では、稗田山の大崩落で浦川を山津波が襲った、その復旧作業の時に浦川橋のところで、大きなヒスイの原石が見つかった事が有るそうです。ヒスイの産地は中土よりもっと下流で姫川に合流する支流「小滝川」の限られた場所で、ヒスイの原石を含む層が河床に現れています。今では国の天然記念物で立ち入り禁止になっていて、採る事はできませんが、大雨などの後等には、そこから下流の姫川の河原で見つかる事が有ります。昨年3団カブのハイキング下見の時に、あまり上質のものではありませんが、こぶし大の原石を拾いました。それと、糸魚川の海岸でも根気よく探すと見つかります。姫川と大所川、両方の産地ものが流れてきています。
最後に、無いはずの池原周辺でヒスイを見つける方法。それは林道の補修作業でばら撒いてあるバラスの中を捜すこと。関西ではバラスは砕石を使いますが、池原では河原の砂利を使います。その砂利がヒスイ産地の下流のものであったなら、ヒスイが含まれている可能性が有ります。僕も過去二つほど、場所も年も違えて見つけましたし、4年程前に3団カブの当時の石村隊長も見つけた事が有ります。それも冗談のような形で。「ヒスイがバラスの中に混ざっているんだよ」なんて話していて、「本当ですか」と言いながら石村君が手ですくったバラスの中にかなり上質のものが入っていたんですから大笑いです。

ヒスイの見分け方。薄緑色の石。又は白い石で、一部がぼやけたように薄緑色に染まっている石。水を着けると、きれいな半透明になる。ほかの石より硬い。などがあげられます。一度、暇な時にでも探してみれば、見つかるかもしれません。但しお母様方のペンダントになるようなものはまず見つかりませんから、あまり血眼にならないように。

ヒスイ原石
糸魚川駅前のヒスイ原石
取り留めなく書いてきましたが、信州池原と言うところは、その気になれば、つねに何か新しいものが見つけられる楽しいところです。と言うところで筆を置きます。否キーを打つのを終わります。

(謝辞)
カワラハハコ・オニグルミ(雄花)・ワサビ の写真については、小熊 清史 様 http://www.micnet.ne.jp/kyonc/ にご提供いただきました。
ありがとうございました。

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